不確実性の高い新規事業において、如何にリスクを最小限に抑えつつ成功可能性を高めるかは非常に重要なポイントです。

どれほど優れた人材や経営資源が揃っていても、100%新規事業が成功する保障はありません。そんな中で「リーンスタートアップ」は、新規事業の成功可能性を高める起業論として、世界中で脚光を浴びています。

この記事では、シリコンバレー発の起業論「リーンスタートアップ」について、プロセスや実際の事例を分かりやすくご紹介します。

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップの意味

リーンスタートアップの意味を知るためには、まずは「リーン」と「スタートアップ」の意味についてそれぞれ知っておいた方が良いでしょう。

リーンとは、英語で「無駄のない」という意味を表します。一方でスタートアップとは、革新的なビジネスモデルにより、急成長を目指す企業または事業を意味します。

つまりリーンスタートアップとは、革新的なビジネスモデルを用いつつ、無駄を徹底的に排除した上で事業の急成長を目指す起業論です。

トヨタ生産方式とリーンスタートアップの共通点

リーンスタートアップを提唱したエリックリース氏は、リーンスタートアップの概要をまとめている際に、トヨタ生産方式との共通項を見つけたと言います。

トヨタ生産方式は、「ジャスト・イン・タイム」と「自動化」という二つの考え方に基づいた、トヨタ発祥の生産方式です。

ジャスト・イン・タイムとは、「かんばん」と呼ばれる商品管理カードを用いて、後工程の要求に合わせて、必要なものを必要な時に必要な量だけ生産する生産方式です。これにより、小ロット化による生産効率性の向上を図れます。

一方で自動化とは、異常が生じた際に機械を停止して、徹底的に原因究明を行うことを指します。これにより、生産過程における問題の顕在化を図れます。

生産効率性の向上と問題の顕在化を同時に実現することにより、トヨタ生産方式では徹底的に無駄を排除できる訳です。

エリックリース氏は、トヨタ生産方式の考え方を自身の理論に応用し、リーンスタートアップの理論を確立しました。

リーンスタートアップのプロセス

リーンスタートアップのプロセス
リーンスタートアップでは、以下のプロセスを短時間かつ低コストで繰り返すことで、新規事業を展開していきます。

新規事業では、確実にアイデアが市場に受け入れられる保障はありません。それを踏まえてリーンスタートアップでは、小規模な仮説検証を繰り返していくことにより、アイデアの質を昇華させます。

仮説の構築

最初のプロセスでは、ターゲット顧客の属性を基に「このような製品・サービスは受け入れられるのでは?」という仮説を立てます。

その後、仮説に基づいた製品・サービスを、極力費用と時間をかけずに開発します。仮説構築のプロセスで開発する製品・サービスは、「MVP(Minimum Viable Product)」と呼ばれています。

仮説の計測

次に、仮説を検証するプロセスに入ります。具体的には、開発したMVPを少人数の顧客に対して提供し、その反応を観察します。

検証で得たデータからの学習

このプロセスは、検証結果が表れる段階になります。

たとえば少人数の顧客に対してMVPを提供した場合、売上高や顧客からのフィードバックなど、何かしらの学びを得られるでしょう。

意思決定

最後に、検証で得たフィードバックなどの学びを基に、意思決定を行うプロセスとなります。顧客から得たフィードバックを基に、次にどのような行動を取るかを意思決定します。

十分なニーズがある製品・サービスを開発できていれば、本格的な開発を行う意思決定を行います。まだまだ改善の余地がある場合には、MVPの改良→検証というプロセスに戻るでしょう。

もしくは、「根本的に仮説が間違っていた」というケースも考えられます。その場合には、仮説自体を変更(ピボット)する選択も一つの手です。

リーンスタートアップのメリット

リーンスタートアップのメリット
次に、リーンスタートアップのメリットをお伝えします。

結論から述べると、リーンスタートアップのメリットとは、「仮説が間違っていた際に生じる損失を最小限に抑えることで、新規事業の成功可能性を向上させられる」点です。

繰り返しになりますが、最初から100%ユーザーのニーズに合致する製品・サービスを提供できるとは限りません。仮説検証の段階で多大な時間と費用を費やしていた場合、失敗した際の損失は非常に大きくなります。一度失敗したら、二度とチャレンジできない恐れもあります。

一方でリーンスタートアップでは、費用やコストは最小限に抑えた上で、試行錯誤を繰り返しながら製品・サービスの質を高めていきます。ですので、一度製品の投入が失敗したとしても、損失を最小限に抑えられます。

つまり一回あたりの損失を最小限にすることで、挑戦できるチャンスを増やせる訳です。この点は、リーンスタートアップの大きなメリットです。

リーンスタートアップに頻出の用語

ここでは、リーンスタートアップについて理解する上で、重要な用語をいくつかご紹介します。

MVP

MVP(Minimum Viable Product)とは、「顧客に価値を提供する上で最小限の機能を持った試作品」という意味を持つ用語です。

MVPを用いた試行錯誤を繰り返すことで、「開発期間の短縮」や「開発費用の削減」などのメリットを得られます。

さらに詳しくMVPについて知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

BML [Build(構築)-Measure(計測)-Learn(学習)]

BMLとは、リーンスタートアップのプロセスである「構築→計測→学習」の略語です。

リーンスタートアップでは、BMLのプロセスをいかに早く繰り返せるかがポイントになります。

キャズム

キャズムとは、「隔絶」や「溝」という意味を表す用語です。リーンスタートアップにおいては、新製品・サービスが普及する際のハードルとなる部分を指します。

流行に敏感な顧客層(アーリーアダプター)に新製品・サービスが受け入れられても、比較的慎重な顧客層(アーリーマジョリティ)に受け入れられずに、新規事業が失敗する事例は少なくありません。

リーンスタートアップを成功させるためには、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にあるキャズムをどうやって超えるかが重要です。

ピボット

ピボットという用語は、事業内容を変更する行為を意味します。たとえば自動車の販売事業から、自転車の卸売事業に方向転換するケースなどが該当します。

リーンスタートアップの過程では、仮説自体が間違っていると判明した際に、迅速にピボットを図ることが必要になります。

アジャイル開発

アジャイル開発とは、迅速かつ臨機応変にシステム開発を行う方法です。

システムの仕様を細分化した上で、重要度の高いものから開発していく点が特徴です。1〜2週間で1つの機能を実装するため、スピード感が重要になるリーンスタートアップと相性の良い開発手法です。

リーンスタートアップの事例

リーンスタートアップの理解を深めるために、具体的な事例を4社ご紹介します。

DropBox

オンライン上で画像などを保存できるサービスを展開するDropboxは、リーンスタートアップの戦略を取って大成功した最たる事例です。

Dropboxは、設立当時一般的であったWebブラウザ型のストレージサービスではなく、インストール型のサービスを展開しました。ニッチ市場であったために、顧客層を取り入れることが難しく、不確実性が著しく高かったと言われています。

そこでDropboxでは、ユーザーの行動パターン調査やAdWordsによるユーザニーズの調査など、短期間で様々な施策を遂行しました。いくつか失敗した施策もありましたが、短期間で改善を続け成功を収めました。

Groupon

共同購入型のクーポンサイトを運営する「Groupon」も、リーンスタートアップで成功した事例の一つです。

当初は寄付を集めるプラットフォームとして事業が展開していました。しかし想定していた結果が出なかったために、ピボットして「Groupon」の事業を開始しました。

当初はWordPressで製作した最小限のMVPから検証を行い、ニーズがあると分かった段階から大規模に事業を拡大しました。

食べログ

カカクコムが運営する「食べログ」も、リーンスタートアップな事業展開の事例として非常に参考になります。

当初は書籍の情報を基にした、手打ちのデータベースから新規事業が始まりました。その後、ヘビーユーザから得たフィードバックを基に、次々とサイトを改善させていきました。早い時はユーザの要望があった機能を1週間後には、実装していたそうです。

リーンスタートアップのプロセスを素早く回すことで、現在の食べログの成功があるのかもしれません。

Instagram

今や世界的に大人気のインスタグラムも、有名なリーンスタートアップの事例です。

あまり知られていませんが、立ち上げ当初は位置情報を共有するSNSサービスでした。リリース後想定とは異なり人気を得られなかったために、「仮説構築→学習」というプロセスを繰り返しました。

上記のプロセスを回した結果、写真の共有機能が人気であることが判明し、それを基にインスタの基礎となるMVPをリリースしました。

リリース後もBMLのプロセスを回し、機能追加を繰り返すことで、インスタのサービスは大成功を収めるに至りました。

リーンスタートアップが学べる良いスライド

リーンスタートアップに関する基本的な説明は以上となりますが、さらに詳しく知りたいという方もいるかと思います。ここでは、リーンスタートアップを学ぶ際に役立つスライドを4つご紹介します。

10分でわかったつもりになるlean start up 〜リーンスタートアップって何ですか?〜

このスライドでは、初心者の方でも理解できるように、分かりやすくリーンスタートアップの説明がなされています。

リーンスタートアップの基本的なことを知りたい方には、とてもおすすめのスライドです。

リーンスタートアップにおける良い仮説、悪い仮説

リーンスタートアップ成功のカギを握る「仮説」に関して、とても詳しく説明されています。

良い仮説と悪い仮説の双方を知ることで、実際に仮説を立てる際のヒントになるでしょう。

はじめてのリーンスタートアップ

こちらのスライドも、初心者の方がリーンスタートアップを学ぶにはオススメです。

身近な生活に例えた説明や、簡単な図表を用いて説明がされているため、イメージを掴みやすいです。

リーンスタートアップと顧客開発とアジャイル開発を一気通貫するッ

こちらは、やや上級者向けのスライドになります。

リーンスタートアップに関して、顧客開発やアジャイル開発との関連性を踏まえつつ解説しています。

理解するのにやや苦労するかもしれませんが、実践的な知識を得られるでしょう。

最後に

今回は、リーンスタートアップのプロセスや事例、メリットについて解説しました。

リーンスタートアップの考え方を取り入れることで、新規事業のリスクを低減しつつ、成功可能性を高めることが可能です。

今回お伝えした情報が、新規事業の立ち上げに役立てば幸いです。

私たちの会社では、リーンスタートアップの実行を補助するアジャイル開発に特化して、新規事業開発向けの開発支援サービスを提供しています。

新規事業でアプリやシステム開発が必要となった際は、ぜひ気軽にご相談ください。

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