新規事業やスタートアップでサービス開発する時は、「MVPからスタートした方が成功しやすい」と耳にした事がある人もいるかもしれません。
シリコンバレー発の事業開発に関するノウハウが世界中に広まった事で、MVPといった概念も徐々に浸透しはじめています。
今回は、MVP(Minimum Viable Product)の概念や、メリットを解説します。
MVP(Minimum Viable Product)の意味
MVPとは“Minimum Viable Product”の略語で、直訳にすると”実用最小限の製品”という意味になります。意訳すると、“顧客に価値提供できる最小限の機能をもった試作品”といったところでしょうか。
MVPは、リーンスタートアップ(Lean Startup)というシリコンバレー発の起業の方法論の中で紹介され有名になりました。
このリーンスタートアップの起業アプローチの中で、顧客が実際にその製品を必要としているか検証する為に開発する製品がMVPなのです。
※リーンスタートアップの詳細については、Eric Riesさんの書いた「Lean Startup」という素晴らしい本がありますので新規事業を検討される方はぜひ読んでみて下さい。
リーンスタートアップ from Wikipedia
コストをそれほどかけずに最低限の製品や、最低限のサービス、最低限の機能を持った試作品を短期間で作り、顧客に提供することで顧客の反応を観察する。その観察結果を分析し、製品、サービスが市場に受け入れられるか否か判断し(市場価値が無ければ撤退も考慮)、試作品やサービスに改善を施し、機能などを追加して再び顧客に提供する。このサイクルを繰り返すことで、起業や新規事業の成功率が飛躍的に高まると言われている。
新規事業のリスクを最小化するMVP開発
最大のリスクは、「誰も必要としない製品」を作ってしまう事
新規事業開発における最大のリスクは、「誰も必要としない製品」を作ってしまう事です。
全く必要とされない(つまり市場が存在しない)製品を作っても、当然ビジネスとして成立しません。しかし、新規事業開発で「誰も欲しがらない製品」を作ってしまう事はよくある事です。
自分の頭の中でアイディアが閃めき、興奮状態で想像を膨らませていくと自分にとって都合が良いユーザ像や、ストーリーを作ってしまいがちです。
起業や、新規事業にはそういった思い込みや勢いが不可欠ですが、初期アイディアがそのままユーザに必要とされ、大ヒットする事は稀です。
思い込みだけで作ってしまった製品は、「誰も必要としない製品」になってしまう可能性が非常に高くなります。
(興奮が冷めて、冷静に考えると、起案者自身もそこまで必要としない製品だったなんて事も…)
アイディアのみの検証の限界
では、もっとアイディアを慎重に考えたら良いのでしょうか?
それもオススメしません。何故なら、アイディアだけでユーザのニーズを検証する事は非常に難しいからです。
自分の周りのペルソナとなるユーザに、アイディアを説明してインタビューをすれば、参考になる意見を貰えるかもしれません。
しかし、大抵の人は”良いんじゃないの?”といったフワっとした肯定的な意見になりがちです。(これが一番勘違いしてしまうので怖い。)
製品がない状態で、アイディアを魅力的にプレゼンテーションされると、なんとなく良さそうなサービスに思えてしまうものです。
実際にどんなサービスなのか具体的なイメージがわかないので、回答の信頼性も低くなってしまうのも仕方がないでしょう。
そこで、実際に製品を作って売り込んでみよう!と思った時に、必要とされるのが、MVP “顧客に価値提供できる最小限の機能をもった試作品” なのです。
MVP開発のアプローチを取らないと恐ろしい理由
MVP の反対語は?
MVP (“顧客に価値提供できる最小限の機能をもった試作品”)の反対語はなんでしょうか?
それは、“顧客に価値提供できる最大限の機能をもった完成品”になるのかもしれません。
最大限の機能をもった完成品というと、良さそうに聴こえますよね。
しかし、最初から最大限の機能をもった完成品をつくる事は、非常に恐ろしい事なのです。
何故なら、“顧客の提供する価値”の部分は、あくまで検証前の仮説だからです。つまり、その製品の提供する価値は、実際の顧客にとっては全く価値がない可能性もあるという事です。
また最大限の機能を開発するには、時間もコストも多くかかります。
半年間と、開発費用1,000万円かけて、”顧客に価値提供できる(と勝手に思っている)最大限の機能をもった完成品”を作って、オープンしたけれど、誰にも使われないという悲劇が起こりかねません。
MVP のアプローチのメリット
そこで、MVPのアプローチです。
まず “顧客に価値提供できる最小限の機能をもった試作品” を最短、最小限の費用”でリリースし、本当にその製品は、顧客に価値提供出来るのか仮説検証するのです。
製品の本質的な価値以外に部分を、全て後回しする事で、開発期間、コストを下げる事が可能になりますし、製品開発において最重要である顧客の具体的なフィードバックを、早いタイミングで取得する事が出来ます。
MVPのアプローチのメリットは
- 開発期間を短く出来る
- 開発費用を削減できる
- 顧客フィードバックを早く得られる
といった点です。つまりコストをかけずに、仮説検証のサイクルを早く回す事が出来るのです。
MVPを提供する事で得られた顧客フィードバックを元に、製品の改善や方向転換を行い、資金が尽きる前に、「顧客が必要とする製品」へと進化させる事が可能になります。
MVP開発 のアプローチの具体例
開発費用900万円かけたAさんの失敗
MVPのアプローチを具体的に考えてみましょう。
例えば、起案者であるAさんは、暇なご近所さんに、買い物や掃除等のちょっとしたおつかいを、アプリから安価に依頼出来るサービスを企画したとします。
Aさんは、このアイディアに興奮しており、次のシェアリング・エコノミーの大本命となるサービスだと確信しています。
サービス開発にあたり、他の有名シェアリング・エコノミー系のサービスをリサーチし、必要となりそうな機能を多数リストアップしました。
- マッチング機能
- GPS機能
- レビュー機能
- チャット機能
- アプリ内決済機能
- 町内のニュース掲示板機能
- Facebookログイン、LINEログイン、Googleログイン
- Webサイト、iOSアプリ、Androidアプリ対応
- リッチなデザイン
- etc…
そして、自身でワイヤーフレームと企画書を書き上げ、開発会社に見積もり依頼を出しました。
出てきた見積りは、開発期間5ヶ月、開発費用900万円といった内容でした。
想像していたより大分高い見積もり金額でしたが、アイディアに熱狂していたAさんは、資本金と融資から開発費用を捻出し、開発をスタートさせました。
実績のある開発会社だった為、順調に開発は進み、5ヶ月後サービスオープンを実現。
Aさんはサービスを広めようと意気揚々とプロモーション活動をしたところ、恐ろしい事実に気づきはじめます。
ユーザがまったくサービスを使ってくれないのです。
現実のユーザは、プライバシーの懸念上、ご近所さんにおつかいを頼みたいとは思っておらず、何かを頼むとしたら、企業に雇われているスタッフの方が頼みやすいと思っている事が判明したのです。
サービスの方向転換をするにも、既に資金を使ってしまった為、開発費用を捻出する事ができません。
そしてAさんのプロジェクトは失敗に終わってしまいました…。
MVP開発のアプローチで成功したAさん
ではAさんはどうすべきだったのでしょうか?
まず様々な機能をリストアップする前に、そもそものアイディアに立ち戻ってみましょう。
今回のアイディアである “暇なご近所さんにちょっとしたおつかいを安価で依頼出来る” といったサービスで最初に検証すべき主要なポイントは
- [仮説.1]「近所の人に安価でお手伝いを依頼できる」事にユーザ(依頼者)は価値を感じる
- [仮説.2]「空き時間に近所でお手伝いをしてお小遣いを稼ぎたい」ユーザ(働き手)が存在する
といった2点ではないでしょうか。
もしこの2点の仮説が間違っていれば、どんなに多機能で、デザインが洗練されていても、ユーザがサービスを利用する事はありません。
つまり、コア機能となるマッチング機能のみでリリースして、1日も早くユーザからフィードバックを貰うべきなのです。
Aさんは、MVPのアプローチで仮説検証した結果、開発期間も費用も1/4以下に抑えられた状態で、思い込みでない、本当のユーザニーズに近づく事が出来ました。
資金もまだ残ってるのでフィードバックを元に、リニューアルオープンも可能です。
これがMVP “顧客に価値提供できる最小限の機能をもった試作品”のアプローチなのです。
あのメガベンチャーもMVPから始まった
ネット注文を受けてから、創業者自ら靴を買いに行ったZappos
Amazonに1000億円以上の金額で買収された靴の大手ECサイトZapposの創業時のエピソードはMVPの価値を実感できるエピソードです。
創業者は、靴のECサイトをはじめようと考えましたが、当時1999年前後では実際にインターネットで靴が売れるか確信が持てませんでした。
そこで、彼は仮説検証をする為に、まずランディングページ(商品紹介ページ)のみを立ち上げて、近所の靴屋の商品の写真を掲載する事からはじめたのです。
そして、実際に靴の注文があると、創業者自ら店から靴を購入し、発送を行いました。
この仮説検証に、在庫も決済機能も高度な商品検索機能も必要ありませんでした。
Zapposは仮説検証を繰り返しながら、靴はネットで売る為にはどうすれば良いかといったノウハウを蓄えていき、大ヒットサービスへと成長していったのです。
最後に
不確実性の高い新規事業を成功させる為に、MVPのアプローチは非常に有効です。
新規事業やスタートアップを検討している方は、ぜひ企画している製品のMVPは何かを考えてみて下さい。
私達、techpartnerは新規事業のシステム開発に特化して事業を行っています。
もしMVPの開発を検討される際は、お力になれるかもしれませんので是非お声がけ下さい。
コメント